■12のセリフの御題

■12のセリフの御題
こちらから

１．「じゃあ、来い」

その日は、雨が降ってた。
正しくは俺が出かけたすぐに、降って来た。
出かけ際にカルナが、今日は雨が降るから、と押し付けた折り畳み傘。
荷物になる、と俺は嫌がったけど、持っててよかった。

雨の日は、好きじゃない。
何時もより街が静かだし、何より俺は雨が嫌いだ。
あー、クソ。鬱陶しい……。
ヘッドフォンの音量を上げて気分を紛らわせる。
俺の世界が音楽に支配される。
その瞬間、世界が白黒に変わる。
色はいらない、音だけでいい。
カルナに言うと、怒られるけどな。

だけど、今日は違った。

紫。
白と黒の路地裏に、紫があった。
子供だ、ちびっちゃい。
少年と少女、似たり寄ったりの身長。
二人とも眼帯をして、見えてる目は同じ赤色。
その子供と、俺は眼が合った。
睨むような赤い二つの眼は少しも俺から逸らさない。

変な奴ら。

それが、俺が始めて持った、双子への印象。

音量を下げながら、つかつかと二人に近づく。
逃げる気配も、戦う気配も無い。
ホント、変な奴らだ。
雨に濡れた二人に傘を向ける。
表情は変わらないけど、驚いたのは、間違いなさそうだ。

「濡れてんぞ」
「……知ってる」
「家は」
「ありませんよう」

ああ、そうですか。
つまりお前らは孤児な訳で。
だからココでボーっとしてる訳で。

なんとなく、俺はこいつらに興味が湧いた。
しゃがんで目線を合わせる。
真っ赤な目は俺を見てる。
ただ見てるだけじゃなくて、見極めるっつーか、なんつーか。
雨に濡れた二人の頭を、ポンポンと撫でる。

「家、無いんだな」
「…おう」
「じゃあ、来い」

肩に傘を乗せて、少年の手を右手に、少女の手を左手に。
家まで濡れちまうな…、しかたないか。
帰ったらふかふかのタオルで拭いてやって、暖かい飲み物でもやろう。

「どこに行くんだ？」
「ん？俺の家」
「何でですか？」
「家に帰るのは当然だろ？」
「俺たちも？」
「そう、お前達は俺の家族」

これから小さな二人に、愛とか、家族とか。
居場所は俺があげるから。
お前らは何も心配しなくていいよ。


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